大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成9年(ワ)2189号 判決

原告

村上普

被告

菅谷公三郎

主文

一  被告は、原告に対し、金三一九六万八七七〇円及びこれに対する平成五年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一億二二四二万七七九五円及びこれに対する平成五年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告運転の普通乗用自動車が原告運転の足踏式自転車に衝突して原告が負傷した事故につき、原告が、被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成五年六月一四日午後七時三五分頃

場所 兵庫県尼崎市食満五丁目三番三号先交差点(以下「本件事故現場」という。)

加害車両 普通乗用自動車(神戸五四た一四〇八)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告

被害車両 足踏式自転車(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告

事故態様 本件事故現場の横断歩道上において被告車両が原告車両に衝突した。

2  後遺障害

原告は、本件事故により、脳挫傷、外傷性くも膜下出血の傷害を負い、平成六年一一月八日、症状固定し、自算会調査事務所において自賠責保険に用いられる後遺障害等級表一級三号に該当する旨の認定を受けた。

3  被告の責任原因

被告は、被告車両を運転し、本件事故現場の交差点を南西方向に進行するにあたり、同交差点の北東側入口には横断歩道が設けられているのであるから、同横断歩道の手前で減速して同所を横断する者の有無とその安全を確認して進行すべき義務があるのにこれを怠り、漫然と時速五〇キロメートルで進行した結果(制限速度は時速四〇キロメートル)、同横断歩道を進行方向右から左に向けて横断中の原告車両の左側部に自車を衝突させて路上に転倒させ、原告をして脳挫傷等の傷害を負わせた。

4  損害の填補

原告は、本件事故に関し、自賠責保険会社及び被告側の任意保険会社から合計五二二九万一五七九円の支払をうけた。

二  争点

1  本件事故の態様(過失相殺)

(被告の主張)

原告は、帰宅途上にあったところ、原告車両の前照灯を点灯せず、無灯火で、横断歩道に進入するにあたり、進路左側の車線上の車両の有無を確認することなく、横断歩道の南西端付近から斜め横断し、被告の走行車線上まで走行した後、同車線のほぼ中央付近で衝突したものである。

以上によれば、四〇パーセントの過失相殺がなされるべきである。

(原告の主張)

原告車両の前照灯が点灯していなかったとはいえない。

本件事故は、もっぱら被告の過失によるものである。

2  原告の損害額

(原告の主張)

(一) 治療費 五四六万〇三九〇円

(二) 会社役員退任による損害(休業損害) 四六一万五八九〇円

原告は、本件事故前、鉄工製品の加工などを目的とする有限会社三和工業所の代表取締役として永く稼動しており、年間五四〇万円の所得を得てきた。ところが、本件事故日以降就業不能の状態に陥り、これにより、平成六年二月一四日付にて右代表取締役の退任を余儀なくされ、平成六年一月一日以降収入の途を絶たれた。平成六年一月一日から症状固定日である平成六年一一月八日までの三一二日間に失った利益は次の計算式のとおりである。

(計算式)5,400,000×312/365=4,615,890

(三) 逸失利益 六二一一万六二〇〇円

原告は、症状固定時六六歳であり、本件事故に遭わなければ平均余命までの一五・九四年間稼働することができ、その間毎年五四〇万円の報酬を得ることができたはずであるところ、本件事故による後遺障害のために労働能力の全てを喪失した。

(計算式)5,400,000×11.5030=62,116,200

(四) 入通院慰謝料 四五〇万円

(五) 後遺障害慰謝料 三〇〇〇万円

後遺障害等級表一級三号に相当する慰謝料である。

(六) 家屋改造費 四一九万八七九五円

自力で起居寝食ができない原告の生活確保のため、ベッドの設置や介護者の起居、車椅子で移動可能な状態に通路を設けたり、床をフラットにしたりする工事、入浴用のリフトや手摺の設置、シャワー室を設けるなどの部屋の改良工事を必要とした。右の費用は、四一九万八七九五円である。

(七) 器具等購入費 四一万二四一〇円

(六)の家屋改造に伴う原告の介護に要する別紙1記載の各用品の購入費用

(八) 介護費 合計六二八万九六〇〇円

原告の介護のため、退院後から平成八年一二月三一日までの間、次の(1)ないし(4)の介護費用を要した。なお、原告の妻村上安規子(以下「安規子」という。)は、介護のため終日原告に付き添っているが、同人は昭和五年三月一〇日生まれであり、しかも慢性C型肝炎という疾患を有する身であり、安規子だけでは、原告の日常の世話をすることは不可能であり、他に介護者を要する。

(1) 訪問看護費用 七万五九五〇円

(2) ホームヘルプサービス費用 四二万五三五〇円

(3) 安規子の介護費用 五六〇万六四〇〇円

但し、原告の退院日である平成六年一一月七日から平成八年一二月三一日までのうち七六八日間(次の(4)の期間を除く)につき、一日あたり七三〇〇円。

(4) 宿泊看護費用 一八万一九〇〇円

安規子は、腸閉塞のため、平成八年九月二一日から同年一〇月二七日まで入院したため、原告を終日介護する要員を一名同年一〇月一〇日から二六日までの一七日間求めた。その費用は一日あたり一万〇七〇〇円である。

(九) 将来の介護費 合計四一六六万六四四〇円

(1) 訪問看護費用 三九万〇七八七円

訪問看護費用は、一日あたり一〇〇円である。原告は、平成九年一月一日現在で六八歳であり、その平均余命は一四・五二年であるから、将来における訪問看護費用は次のとおりである。

(計算式)100×365×10.7065=390,787

(2) ホームヘルプサービス費用 二五一万六六六九円

ホームヘルプサービスを受けるには、一日あたり平均六四四円の負担を要する。原告は、平成九年一月一日現在で六八歳であり、その平均余命は一四・五二年であるから、将来におけるホームヘルプサービス費用は次のとおりである。

(計算式)644×365×10.7065=2,516,669

(3) 安規子の介護費用 七二七万六七四九円

安規子が原告を終日付き添って看護しうるのは、同人の年齢及び持病からして、平成九年一月一日以降三年間が限界である。したがって、将来における安規子の介護費用は次のとおりである(一日あたり七三〇〇円)。

(計算式)7,300×365×2.7310=7,276,749

(4) 宿泊看護費用 三一四八万二二三五円

右(3)のとおり、平成一三年一月一日以降は、原告に付き添って終日介護するために安規子に代わる終日勤務の介護者が必要である。平成一三年の原告の年齢は七三歳であり、その時の平均余命は一一・一八年である。宿泊看護は、少なくとも一日あたり一万〇七〇〇円を要するから、将来の宿泊介護費用は次のとおりである。

(計算式)10,700×365×8.0610=31,482,235

(一〇) 介護用品費 一七万九三三四円

退院後である平成六年一一月七日から平成八年一二月三一日までに要した介護用品費は、一七万九三三四円である。

(一一) 将来の介護用品費 合計三二六万八三一五円

(1) 成人用おむつ等介護用品費 七五万六二二一円

介護用品費は、一月あたり五八八六円である。原告は、平成九年一月一日現在で六八歳であり、その平均余命は一四・五二年であるから、将来における右費用は次のとおりである。

(計算式)5,886×12×10.7065=756,221

(2) 床ずれ防止寝間着等用品費 二五一万二〇九四円

原告の介護のため、将来において別紙2記載の各用品が必要となるが、これらの総額は三四八万一〇八〇円である。これを症状固定時の平均余命である一五・九四年で除した毎年あたりの平均額二一万八三八六円宛て支出するものとみなすと、将来における右費用は次のとおりである。

(計算式)218,386×11.5030=2,512,094

(一二) 診断書費用 一万二〇〇〇円

原告は、保険金請求のため一万二〇〇〇円の診断書費用を要した。

(一三) 弁護士費用 一二〇〇万円

よって、原告は、被告に対し、右損害金合計額一億七四七一万九三七四円から填補額五二二九万一五七九円を控除した一億二二四二万七七九五円及びこれに対する本件事故日である平成五年六月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の主張)

不知ないし争う。

本件事故当時、原告は、有限会社三和工業所の代表取締役として年収五四〇万円の報酬を得ていたが、その労働対価部分は六ないし七割程度であると考えるべきである。

稼働期間は七〇歳までを上限とすべきである。

原告は、本件事故に関し、東京海上火災保険株式会社及び千代田火災海上保険株式会社から、いわゆる傷害保険金給付を受けた。右事情は、原告の慰謝料の算定の際に減額事由として考慮すべきである。

原告の介護は、訪問看護及びホームヘルプサービスで足りる。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲四2ないし5、7、9ないし11、13、14、乙一ないし二〇)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、兵庫県尼崎市食満五丁目三番三号先交差点(以下「本件交差点」という。)であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場を通る道路(以下「本件道路」という。)は、北東から南西方向に走る片側一車線の道路であり、車道の幅員は両車線とも三・五メートルであり、車道の外側には歩道が設置されている。本件交差点の北東側には信号機による交通整理が行われていない横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)が設けられている。本件道路の制限速度は時速四〇キロメートルに規制されている。本件事故当時の路面はアスファルト舗装の平坦な乾燥路であった。本件道路の南行車線を北から走行してきた場合、本件事故現場付近における前方の見通しはよい。街灯は本件事故現場南方約三五メートルの地点に設置されており、本件事故当時、本件事故現場は暗い状態であった。

被告は、平成五年六月一四日午後七時三五分頃、被告車両を運転し、本件道路の南行車線を北東から南西に向かって、時速約五〇キロメートルで走行し、別紙図面〈1〉地点において、前遠方を注視していたところ、同図面〈2〉地点で、本件横断歩道を北側から横断中の原告車両(同図面〈ア〉地点)に気づき、急ブレーキをかけたが間に合わず、同図面〈×〉地点において原告車両に衝突し(その時の被告車両の位置は同図面〈3〉、原告車両の位置は同図面〈イ〉地点)、被告車両は同図面〈4〉地点に停止した。原告は同図面〈ウ〉地点に転倒し、原告車両は同図面〈エ〉地点に転倒した。原告車両は、本件事故当時、無灯火であった。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  前認定事実によれば、本件事故は、被告が前方の安全確認を十分にすべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠ったために起きたものであると認められる。また、足踏式自転車が道路交通法上の車両に該当することは明らかではあるが、その利用者及び走行の実状にかんがみると、足踏式自転車が横断歩道を横断する場合には、対自動車との関係では、歩行者が横断する場合に近い保護が与えられてしかるべきであるから、被告の過失は重いといわなければならない。しかしながら、原告としても、足踏式自転車に乗って交差点を渡る以上、進行してくる車両の有無・動静に注意を払うことが期待されたというべきであるし、これに本件事故の時間帯が夜間であり、本件事故現場が暗かったこと、原告車両が無灯火であったことを併せ考えると、原告に生じた損害の全てを被告の負担とするのは公平に失するといわざるを得ない。

よって、本件においては、右認定にかかる一切の事情を斟酌し、二割五分の過失相殺を行うのが相当である。

二  争点2について(原告の損害額)

1  証拠(甲二、三、七、原告後見人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 治療経過等

原告(昭和三年二月二七日生、本件事故当時六五歳)は、本件事故当日である平成五年六月一四日、救急車にて兵庫県立西宮病院(以下「西宮病院」という。)に搬送され、脳挫傷、外傷性くも膜下出血等の傷病名で同日から平成六年二月一七日まで入院し、同日、神戸リハビリテーション病院(以下「神戸病院」という。)に転院し、同年一一月五日まで機能回復訓練のために入院した(両病院の入院合計日数五一〇日)。また、平成六年一〇月二五日から同年一一月九日までの間実通院日数にして三日間、西宮病院に通院した。

西宮病院の呉医師は、平成六年一一月八日をもって原告の症状が固定した旨の後遺障害診断書を作成した。同診断書によれば、原告には、客観的なテストが不可能な程度の高度の精神機能低下がみられ、高次脳機能障害が認められるとされ、日常生活においても介護が必要であり、寝たきり状態であって、坐位(車イス)の保持がようやく可能な状態であり、簡単な発語は可能であるが会話は不可能とされている。

また、神戸病院の樫木医師作成の平成六年一一月二三日付診断書においても、原告には右上下肢麻痺、精神機能低下があり、日常生活動作はほぼ全介助を要するレベルであるとされている。

自算会調査事務所は、原告の後遺障害につき、自賠責保険に用いられる後遺障害等級表一級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)に該当するものと認定した。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) 後遺障害等級、症状固定時期

右認定事実によれば、原告の症状は、平成六年一一月八日に固定したものであり、その後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害等級表一級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)に該当するものと認められる。

2  損害額(過失相殺前)

(一) 治療費 五四六万〇三九〇円

原告は、本件事故による治療費として五四六万〇三九〇円を要したと認められる(弁論の全趣旨)

(二) 会社役員退任による損害(休業損害) 三二三万一一二三円

まず、休業損害算定における基礎収入について判断するに、前認定事実、証拠(甲四7、五2、六、一七)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、原告が有限会社三和工業所の二代目の代表取締役であったこと、初代の代表取締役は村上計(安規子の父)であったこと、有限会社三和工業所の事業内容は、主として鉄工製品の加工業であり、原告の他、原告の長男である秀法及び四名の従業員が稼働していたこと、原告は右役員報酬として年額五四〇万円の支払を受けていたこと、原告は本件事故当時六五歳であったことが認められ、右事実を総合すれば、本件事故当時における役員報酬額五四〇万円の七割に相当する額(年額三七八万円)は原告の労働対価部分であると認められる。

次に、原告の要休業状態について判断するに、前認定にかかる原告の症状・治療状況、証拠(甲六)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故日以降、就業不能の状態に陥り、平成六年二月一四日付にて右代表取締役の退任を余儀なくされ、平成六年一月一日以降収入の途を絶たれたと認められる。したがって、平成六年一月一日から症状固定日である平成六年一一月八日まで三一二日間の休業損害は次の計算式のとおりである。

(計算式)3,780,000×312/365=3,231,123(一円未満切捨て)

(三) 逸失利益 二四九〇万六四二〇円

原告の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級の一級三号に該当するところ、原告の症状固定時の年齢(六六歳)にかんがみると、原告は、右後遺障害により、その労働能力の全てを症状固定時から八年間喪失したものと認められる。

原告の逸失利益算定上の基礎収入(年収)は、前記のとおり三七八万円であるところ、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、後遺障害による逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式)3,780,000×1.00×6.589=24,906,420

(四) 入通院慰謝料 三二〇万円

原告の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は三二〇万円が相当である。

被告は、原告が、本件事故に関し、東京海上火災保険株式会社及び千代田火災海上保険株式会社から傷害保険金給付を受けていることを理由として慰謝料の減額事由として考慮すべきであると主張するが、右保険金給付は原告が支払った保険料の対価であり(甲二二)、慰謝料の減額事由として考慮するのは相当でない。

(五) 後遺障害慰謝料 二四〇〇万円

前記のとおり、原告の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表一級に相当するものであり、原告の右後遺障害の内容及び程度を考慮すると、右慰謝料は、二四〇〇万円が相当である。

(六) 家屋改造費 四一九万八七九五円

前認定にかかる原告の状態、証拠(甲八1ないし5、一七、検甲一1ないし12)によれば、原告の日常生活を可能とするためには、車椅子で出入り可能な状態に通路を設けたり、床をフラットにしたりする工事、入浴用のリフトや手摺の設置、シャワー室を設けるなどの部屋の改良工事が必要であり、右改造をするために四一九万八七九五円を要したと認められる。

(七) 器具等購入費 四一万二四一〇円

また、原告は、右(六)の家屋改造に伴う原告の介護に要する別紙1記載の各用品の購入費用として、合計四一万二四一〇円を要したと認められる(甲九1、2)。

(八) 介護費 合計三三〇万四七〇〇円

前認定にかかる原告の状態に加え、安規子も高齢(昭和五年三月一〇日生)であり、しかもC型慢性肝炎に罹患していること(甲一七、一八)にかんがみると、安規子だけで原告の日常生活の世話を行うことは不可能であり、他に介護者を要すると認められる。以下、右の前提で介護費を検討する。

(1) 訪問看護費用 七万五九五〇円

原告は、平成六年一二月八日以降平成八年一二月二七日まで、社団法人兵庫県看護協会尼崎支所訪問看護ステーションから老人訪問看護を受けて健康管理を行ってもらい、そのための費用として合計七万五九五〇円を要したと認められる(甲一〇1ないし26)。

(2) ホームヘルプサービス費用 四二万五三五〇円

原告は、平成六年一一月から平成八年三月まで、尼崎市のホームヘルプサービスを受け、自己負担金として合計四二万五三五〇円を要したと認められる(甲一一1ないし18)。

(3) 安規子の介護費用 二六二万一五〇〇円

証拠(甲一三、一七、一九、原告後見人)及び弁論の全趣旨によれば、安規子は、平成六年一一月七日から平成八年九月二〇日まで、同年一〇月二八日から同年一二月三一日までの合計七四九日間、原告の介護を行っていたこと、安規子は前記訪問看護やホームヘルプサービスの助力を受けてたことが認められ、これらの事情によれば、右介護費用は一日あたり三五〇〇円相当と認めることができる。したがって、右期間における安規子による介護費用は、合計二六二万一五〇〇円である。

(4) 宿泊看護費用 一八万一九〇〇円

安規子は、腸閉塞のため、平成八年九月二一日から同年一〇月二七日まで入院した(甲一三)。そのため、原告は、終日介護してもらう要員一名を同年一〇月一〇日から二六日までの一七日間必要とし、その費用として一日あたり一万〇七〇〇円、合計一八万一九〇〇円を要した(甲一二)。

(九) 将来の介護費 合計三六二九万六七四四円

原告は、平成九年一月一日を基準時としてこれ以降を将来分の介護費として主張するので、当裁判所もこれに沿って以下判断する。

(1) 訪問看護費用 三七万四七二四円

証拠(甲一〇1ないし26)及び弁論の全趣旨によれば、平成九年一月一日以降も、訪問看護費用として一月あたり三〇〇〇円は要すると認められる。原告は、平成九年一月一日現在で六八才であるから、その平均余命を勘案すると、その後一四年間は要介護状態が継続すると認められる。したがって、将来における訪問看護費用は、中間利息を控除すると、次のとおりである。

(計算式)3,000×12×10.409=374,724

(2) ホームヘルプサービス費用 二四四万六七三九円

証拠(甲二〇1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、ホームヘルプサービスを受けるには、一日あたり平均六四四円の負担を要すると認められる。原告は、平成九年一月一日現在で六八才であるから、その平均余命を勘案すると、その後一四年間は要介護状態が継続すると認められる。したがって、将来における訪問看護費用は、中間利息を控除すると、次のとおりである。

(計算式)644×365×10.409=2,446,739(一円未満切捨て)

(3) 安規子の介護費用 三四八万八八五二円

安規子が原告を終日付き添って看護しうるのは、前認定にかかる同人の年齢(昭和五年三月一〇日生)及び持病に照らすと、平成九年一月一日以降三年間が限界であると認められる。したがって、将来における安規子による介護費用は、一日あたり三五〇〇円とし、中間利息を控除すると、次のとおりである。

(計算式)3,500×365×2.731=3,488,852(一円未満切捨て)

(4) 宿泊看護費用 二九九八万六四二九円

前認定にかかる原告の状態、安規子の年齢・持病、訪問看護の内容(月に数回、甲一〇2ないし26)、ホームヘルプサービスの内容(毎日日中数時間、甲一七)に照らすと、平成一二年一月一日以降は、安規子に代わり、原告に付き添って終日介護にあたる介護者が必要であると認められる。原告は、平成九年一月一日現在で六八才であるから、その平均余命を勘案すると、平成九年一月一日以降一四年間(平成一二年一月一日以降は一一年間)は要介護状態が継続すると認められる。宿泊看護は、将来においても少なくとも一日あたり一万〇七〇〇円を要するから(前認定の宿泊看護費用から推認)、将来における宿泊看護費用は、中間利息を控除すると、次のとおりである。

(計算式)10,700×365×(10.409-2.731)=29,986,429

(一〇) 介護用品費 一七万九三三四円

原告は、退院後である平成六年一一月七日から平成八年一二月三一日までに介護用品費として合計一七万九三三四円を要したと認められる(甲一四1ないし39、弁論の全趣旨)。

(一一) 将来の介護用品費 合計三一四万五二一六円

(1) 成人用おむつ等介護用品費 七三万五二〇八円

原告は、介護用品費として一月あたり五八八六円を要すると認められる(甲一四1ないし39、弁論の全趣旨)。原告は、平成九年一月一日現在で六八歳であるから、その平均余命を勘案すると、平成九年一月一日以降一四年間は介護用品費を必要とする状態が継続すると認められる。したがって、将来における介護用品費は、中間利息を控除すると、次のとおりである。

(計算式)5,886×12×10.409=735,208(一円未満切捨て)

(2) 床ずれ防止寝間着等用品費 二四一万〇〇〇八円

証拠(甲一六1ないし3、一七、一九)及び弁論の全趣旨によれば、原告の日常生活維持のため、症状固定日以降将来において別紙2記載の各用品が必要となると認められる。ただ、右のうちエアコン、加湿器及び空気清浄器に関しては原告以外の者にとっても利益となるから、本件事故と相当因果関係を有するのはその価格の七割と認めるのが相当である。そうすると、本件事故と相当因果関係を有する金額は三三四万二六〇〇円となる。平均余命に照らすと、原告は八二歳までは生存しうるものとして考えるのが相当であるから、症状固定日である平成六年一一月八日(同日における原告の年齢は六六歳)から起算すると、その後一六年間にわたり右合計額三三四万二六〇〇円を支出することになる。そこで、原告主張の計算方法に準じ、この間毎年均等に二〇万八九一二円(一円未満切捨て)を支出するものとして計算し、中間利息を控除すると、将来における床ずれ防止寝間着等用品費は次のとおりである。

(計算式)208,912×11.536=2,410,008(一円未満切捨て)

(一二) 診断書費用 一万二〇〇〇円

原告は、一万二〇〇〇円の診断書費用を要したと認められる(甲一五1ないし4、弁論の全趣旨)。

3  損害額(過失相殺後)

以上掲げた原告の損害額の合計は、一億〇八三四万七一三二円であるところ、前記の次第でその二割五分を控除すると、八一二六万〇三四九円となる。

4  損害額(損害の填補分を控除後) 二八九六万八七七〇円

原告は、本件事故に関し、合計五二二九万一五七九円の支払を受けているから、これらを前記過失相殺後の金額八一二六万〇三四九円から控除すると、残額は二八九六万八七七〇円となる。

5  弁護士費用 三〇〇万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告の弁護士費用は三〇〇万円をもって相当と認める。

6  まとめ

よって、原告の損害賠償請求権の元本金額は三一九六万八七七〇円となる。

三  結論

以上の次第で、原告の被告に対する請求は、三一九六万八七七〇円及びこれに対する本件事故日である平成五年六月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

別紙図面 交通事故現場見取図別紙1別紙2

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例